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  • 執筆者の写真popatootie

アメリカンドリームは甘いだけじゃない


ドーナツキングのファンアート
THE DONUT KING FAN ART


小さい頃、母親と一緒に買い物に行くと、某チェーンのドーナツ店でお茶をするのが定番だった。ショーウィンドウいっぱいに並べられた何種類ものドーナツは全部美味しそうで、いつもどれにするか迷っては結局定番のはちみつ味のシュガーグレーズドのドーナツを選んでいたのを覚えている。

本場のアメリカでは、スイーツとしてのみならず、朝食の定番としてもかかせない存在で、映画の中でも夜勤明けの警察官や出勤前のビジネスマンがコーヒー片手にドーナツを頬張るシーンがよく描かれている。我が家では”2つだけルール”があったせいか、映画の中で箱いっぱいに詰められたドーナツを目にする度に、めちゃめちゃうらやましい!と思ったものだった。


そんなアメリカ人にとっては国民食といってもいいくらいのドーナツ。アメリカ全土には約2万5000店以上もドーナツ店があり、約5000店はカルフォルニア州にあるという。さらに、驚いたのは、約5000店舗あるドーナツ店の9割近くがカンボジア系アメリカ人が経営しているとう事実。

この映画では、その原点とも言われている”ドーナツキング”ことテッド・ノイの数奇な人生が描かれている。祖国であるカンボジアを内戦によって追われ、難民としてやって来たアメリカで、家族を養う為に始めたドーナツ店の経営。そこで莫大な資産を手に入れた彼は、アメリカンドリームの象徴として、今もドーナツ店を営むカンボジア系アメリカ人の間ではレジェント的な存在として扱われている。


私自身、内戦当時のカンボジア国内でどのような事が起こっていたのかこの映画を通して初めて知ったのだが、そんな過酷な状況から逃れ、突如何も知らない土地で生きるために必死で努力をして、大手チェーン店さえも脅威を感じるような店舗経営を成功させた彼の姿に、「働きやすさ」から少しでも外れた状況ができると、ストレスを爆発させては、不満しか言わない自分の仕事への向き合い方が少し恥ずかしく思えてきた。


成功後の彼は、ドーナツのようにスイートなだけではなく、自ら招いた出来事で天と地とも言えるような状況に陥ってしまうのだけど、晩年を迎えた今、穏やかな気持ちでその全てについて語ることができているのは、成功を独り占めせずに、彼に続いてやって来た家族や同胞にも同じようにアメリカで生き抜く術を分け与えてきたことで、彼らにリスペクトされ続けるわずかな誇りが彼の中に残っているからなのかもしれない。


この映画は、アニメーションやポップな音楽を取り入れながら、一個人の人生のみならず、カンボジア内戦の歴史や、難民の受け入れ、大手チェーン店vs個人経営店など様々な問題が描かれていて、おそらくトランプ政権が終わった今だからもう一度多くの人がその問題について考え語り合うべき作品となっている。


毎日を当たり前のように過ごせることに感謝して、その状況におごらず、手に入れたハッピーをみんなにも分け与える。実は夢を手に入れることはそんなに特別なことなのじゃないのかもしれない。なのに、誰もがなかなかそれを実現することができない。

煮詰まると何事も複雑に考えすぎるから、甘いドーナツとコーヒーでひといきついて、私自身も毎日との向き合い方をちょっと見直して考えてみようと思う。


 

でもイラストと共に短いコラムを掲載しております(Gucchi's Free School)


映画『ドーナツキング』は11/12(金)より新宿武蔵野館 他にて全国順次ロードショーです🍩

※試写を見る機会をいただいて、ファンアートを作成いたしました。


(COLUMN: YUMI.A / ILLUSTRATION: Marino.S / IMAGE COMPOSITING WORK: Natsumi.S )




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